博士論文 「粉体流動層の粒子ダイナミックス」

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博士論文 「粉体流動層の粒子ダイナミックス」
東北大学大学院理学研究科 物理学専攻
市來 健吾 (平成8年度)

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論文目次

第1章 はじめに

第2章 現実の流動層と理想流動層

第3章 シミュレーション方法

第4章 計算結果と解析

第5章 議論

第6章 結論と課題


論文要旨

本研究では粉体流動層の数値解析を行う。本研究の特徴は、これまでに開発さ れて来た手法のほとんどが現象論的に流体と粒子の相互作用を導入したのに対 し、この流体力学的相互作用を正確に扱いモデルの構成を行った点である。こ のようなモデルを構成する為に、粒子集団を連続体近似で扱うのではなく、個 々の粒子の運動を直接扱う。また現実の流動層から最小限の基本的なメカニズ ムのみを取り出して「理想流動層」を定義し、この系をモデル化する。これは、 現実の粉体流動層は一般に粒子の大きさや系に流し込む流体の流速の範囲が広 く、これら全てを包括的に記述する第一原理的なモデルの構成は不可能である 為である。

粒子と流体の相互作用は本来流体の粘性による摩擦の効果である為、理想流動 層では粘性が支配的な低レイノルズ数の極限で流体を記述する。粒子間の直接 相互作用は剛体的で、衝突は弾性とした。また粒子は全て同じ大きさの球とし、 粒径や質量、形状の分布は無視した。低レイノルズ数を仮定している為、流入 流速が大きな場合の挙動、例えば希薄流動状態や輸送状態などを記述するのは 不可能である。従って現実の流動層の示す現象の中でも静止状態から流動状態 への流動化現象と、気泡流動状態を含む比較的穏やかな流動状態が直接の考察 対象となる。

モデル化で最も重要な低レイノルズ数での粒子間相互作用は、支配方程式の線 形成の為に、粒子速度と流体に及ぼす力とを関係づける行列によって表される。 この行列は粒子濃度が希薄な場合や2粒子のみの場合は求められている。今考 察しようとする粒子濃度が高く多くの粒子が存在する場合は、希薄な場合と2 粒子の場合の解をセルフコンシステントに結合する方法が良い結果を示す事が、 コロイド粒子系の数値シミュレーションに於いて示された。本研究ではこの近 似の正当性を確認する意味から、沈澱現象での平均沈降速度の解析にこの近似 を用い、既存の解析が改善される事を示す。

粉体はコロイド粒子と異なり粒子の慣性が重要となる。しかし低レイノルズ数 での粒子間相互作用を用いると、この相互作用の近接効果の持つ特異性(抵抗の 発散)の為に、モデルに有効に慣性を導入できないことが分かる。本研究ではこ の特異性を繰り込んだ慣性を用いる事でモデルを構成した。この繰り込みが現 実の系の振舞を良く再現する事は、現実の系では流体の連続性の限界や粒子表 面での凹凸などにより流体力学的相互作用の特異性が隠されることを意味する。

このモデルを特徴付けるパラメータは、流入速度と無次元化された粒子質量で あるストークス数である。このパラメータ空間で系統的に数値シミュレーショ ンを行う。この結果、流入速度に流動化相転移が生じる臨界流速が存在する事 が分かる。流動層の膨張率と流入速度の関係も実験結果を定性的に再現する。 また流動状態はチャンネル状態と気泡状態の2種類があり、ストークス数がこ れらの状態を特徴付けることが分かる。

粒子の運動エネルギーの振舞から、流入速度が「温度」の役割を持つ事が示唆 される。この「温度」を用いて揺動散逸定理(アインシュタインの関係)を理想 流動層に適用し、自己拡散係数から有効粘性率を定義する。この有効粘性の流 入速度依存性が、現実の実験結果と無矛盾である事が示される。また有効粘性 率はストークス数依存性を含めて速度分布の非ガウス性の強さと極めて良く一 致している事が分かる。

これらの結果は液体論で用いられる空孔模型で説明する事が出来る。つまり理 想流動層の定常状態と液体の間に強い類似性が示される。


(cf. これまでの研究業績

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