- 振り返ってみたら、大体、予想通りだったという話:
今年は、ふんどし締め直してやろうかなぁと。
というのは、去年1年間、とめたでしょ、ライブを。
とめて、それはそれでよかったのよ。
こう、まわりのことが、冷静に見えたり、
自分のことも、わかるじゃない?
「人ってこうだよな」って。
わかっちゃいるけど、とめたことによって、
「ああー、やっぱりそうだ」って、
より確信したみたいな。
なにか予想外のことがあったわけでもない。
だいたい、想像してたとおりだった。
- 青臭さ、大事だよー
矢沢 で、4年ぶりのニューアルバムも出る。
糸井 うん。
矢沢 糸井、聴いてくれた?
糸井 うん、聴いた。
矢沢 どうだった?
糸井 若くなったね。
矢沢 いいでしょ?
そう、「若くなった」って、
みなさん言ってくれるんですけどね、
それ、意図的なことでもあったの。
若くしたいって意味じゃなくてね、
「青臭さを残しときたい」と思ったね。
「青臭さ、大事だよー」みたいな。
- 寝かしてみる。それでも飽きないものが、いいもの。
糸井 今回のアルバムって、
なににいちばん時間かけた?
糸井 熟成させたみたいなことかな。
矢沢 そういうこと。
だから、最後までダーッとつくらなかった。
糸井 ぼくもちょっと似たところがあってね。
よく、「コピーをどうやってつくるんですか」って
訊かれたときに答えることなんだけど、
「つくるのは、すぐなんです」と。
矢沢 うん。
糸井 つくるのはすぐなんだけど、
できたそれをすぐに終わりにしないで、
「頭の中の掲示板に、
はり紙みたいにして、はっておくんです」
っていう言い方をよくするの。
そうやって、頭の中にはっておくとさ、
そこに人だかりができるんだよ。
矢沢 いいこと言うねぇ。
糸井 で、「いいね」とか、「悪いね」とか、
「いいと思ったけどわかりづらいね」とか、
「時間が経ったほうがいいね」とか
言うんだよ、頭の中の人々が。
矢沢 はいはい、はいはい。
人々がね。ふふふふふふ。
糸井 架空のオレだったり、
架空のお客さんだったりする人々がね。
で、なんやかんや言われたやつを、
「そうだろうなぁ」って感じながら、
「じゃあ、いいんじゃない」って思えたら
それが完成なんだよ。
つまり、頭の中にはりだして、眺めて、
自分が飽きないようなものはOKなのよ。
矢沢 そうなのよ!
自分が飽きないものがOKなわけよ。
- 本当に大事なのは「技術的」じゃないもの。
矢沢 最近、よく思うのはね、
音楽のつくり手と聴き手のあいだに
決定的な違いが
できてるんじゃないかってことでね。
矢沢 それを突き詰めていくとね、
オレたち、バンドやってる人間は
やっぱり海の向こうに目がいくわけ。
で、海外で録音したり、アレンジを極めたり。
もう、すごいミュージシャンを集めたり、
演奏のテクニックを追求したりね。
でもね、それってぜんぶ、つくる側の話でね。
聴いてる人たちがどういう感覚で
聴いてるかつったら、そんな、
どんだけ複雑なアレンジなのかとか、
どんだけすごい演奏なのかとか、
そんなのぜんぜん関係なかったりするもんね。
矢沢 つくる側からすると、追求すればするほど、
もっと奥があるんじゃないかと思うんだよ。
だから、スネアの鳴りがどうしたとか、
もっとギターのリバーブをとか、
もう、どんどん突き詰めちゃうんだよね。
それで、いちばん肝心要の、
リスナーがどういうポイントで聴いてるのか、
っていうことが、考えられなくなってる。
矢沢 それが、自分で、つくりはじめたら、
「あのさ、スネアの革がね‥‥」
矢沢 いまは、そこじゃないってことが、わかるね。
糸井 もちろん、
「スネアの革が」って言ってるときには、
すごく真剣にやってるんだよね。
矢沢 真剣。真剣すぎるくらい真剣。
でも、やってることが、
ぐるっと一周まわったときに、
「あれ?」って気づくんだ。
糸井 それって、だいたいいつごろの話?
矢沢 まぁ、うすうすはわかってたけど、
ものすごくはっきりとわかったのは、
この4年、5年ぐらいね。
糸井 最近だ。時間かかったねぇ(笑)。
矢沢 そう。途中でやめてたらね。
途中で引退かなんかしてたら‥‥。
糸井 「スネアの張りが」って言ったまま。
矢沢 そう、そう。
「音楽は奥深いんだよ」で終わってたわけよ。
ところがやめずにずっとつづけてきたもんだから、
「ちょっと待てよ?」と。
ひと回りして、
「リスナーってどのへんで聴いてんだ?」
ってなったんだよね。
- 自分で仕切ること、自分で責任を持つこと、社長になること。
糸井 今日はね、ひとつ、裏のテーマとして、
「ひとり立ち」っていうことについて
訊きたいなと思って来たんだけど。
糸井 ほら、このアルバムから、
もとのレコード会社を離れて
自分のレーベルをつくった形になってるでしょ。
そういうことも含めて、
「自分で決裁する立場」に
どんどんなっていく永ちゃんに、
いま、「ひとり立ち」することについて訊いたら
おもしろいんじゃないかなぁと思ってさ。
矢沢 OK。
じつはね、それについては、ぼくは、
あるとき本気で考えたことがある。
矢沢 たしかにぼくは、昔から、自分で、
自分のプロジェクト、自分の会社、
自分を取り巻いてること、自分で決裁してきた。
で、いつから、決裁してきたんだろう、
どこで決心したんだろう、
最初からこうだったっけ?
って考えたことがあるの。
矢沢 そしたらね、わかったんだ。
決して、ほんとうに、決して、
自分から進んで決裁したことなんか、
ありゃしないんだよ。
矢沢 で、ずっと考えて、自分なりに出した結論。
正直なことをいうとね、
たぶん、ぼくだけじゃなくて、誰も彼も。
それこそ総理大臣みたいな人も。
すべてとは言わないけど、
かなりの多くの人たちがそうだと思うんだけど、
最初から「オレが決裁しよう」と思って
決裁した人なんかいないんじゃないかな。
矢沢 ところが、あるときにね、
あるときに、自分の身に、
あるいは自分の身のまわりに、
なにかが起きるわけ。あるときによ。
なんか、こう、そうせざるをえない、
こう、ところてんが押し出されるみたいに、
気がついたら前に出てるときがあるわけ。
出されちゃうのか、
出なきゃいけなくなっちゃうのか、
なんか、わからないけど、
やらなきゃいけない。こういうときが来るのよ。
糸井 うん、うん。
矢沢 それは、その人の運命なのか、
選んだのか、選ばれたのか、
ぼくはよくわからない。
矢沢 なんつーのかな、たとえば、
流れが悪かったりして、頭にきたりするんだよ。
で、頭にきたときに、
「なんでスムーズにいかないんだ!」
って叫んだそのときに、
その人は矢面に立つことに慣れるんだよ。
糸井 ああーーー。
矢沢 わかる?
糸井 わかる(笑)。
そのとき、まわりのみんなが
そのことばを聞くんだよね。
矢沢 そう。
こっちは慣れるつもりなんてないのに、
流れがよかったり悪かったりするのを見ていると
ときどき腹が立ってね、
「なんで流れが悪いんだよ、流れよくしろ!」
って言ったときに、
もうそこで社長になってるんだよね。
会社の経営者なんかでもね、
最初から、がっちりわかってやったやつ、
あんまりいねぇんじゃねぇかって思う。
糸井 けど、ほかの人が言うならまだしも、
「自ら進んで矢面に立ちたがる人なんていない」
って、永ちゃんが言うのはおもしろいね。
だって、たぶん、永ちゃんのことを
「生まれついての、前に出て行く人」
としてとらえている人は多いと思うよ。
矢沢 でもねぇ、本人にしてみりゃ、
「いつからこうなっちゃったんだ?」
って感じだからね。
糸井 できれば、矢面になんて、立ちたくない。
矢沢 決して矢面に立ちたかったわけじゃない。
オレ、できればね、誰かが、
がっつり、オレをプロテクトしてくれて、
もう、税務署の話も考えなくていい、
印税計算もしなくていいよ、って
言ってくれたらどんなにラクかって思ったよ。
ある日、だれかがオレの肩を
トントンって叩いてね、
「メロディーだけつくってて」
って言ってくれたらって。
矢沢 それでも、あるとき、オレはあきらめた。
あー、オレのそばには
そういうやつ来ないんだなと、思った。
そしたら、うちの女房が言ったんだよ。
「あなたがそういう人を求めてないんだよ」って。
矢沢 なんつーか、人間のタイプの問題で、
けっきょくオレは、誰かの手の中で
踊らされるのは納得できないんだよね。
- 大手レコード会社から離れたミュージシャン
糸井 ああ、そうそう、
いまの永ちゃんの動きっていうのは、
レコード会社をつくったっていう形になるの?
レーベルをつくったっていうんですか。
どういう言い方をすればいいのかな。
矢沢 なんだろうね、
レコード会社をつくったって言ったら
まぁ、かっこいいんだけど、
カンタンに言えば、大きなインディーズとして
活動するっていうことかな。
オレ、いままでメーカーにいた人だからね。
糸井 そうだよね。
矢沢 大手の、EMIっていう会社にいたんだけど、
ま、こういう時代だし。
つまり、ダウンロードは自由だ、
インターネットはこんなに発達した。
もう、流通を持ってる大きなメーカーじゃなきゃ
全国に配布できないという
時代じゃなくなったよね。
糸井 そうだね。
矢沢 っていう時代がきたときに、
「さてどうするか」と。
- まじめで真剣な話として、大事なのはお金じゃない。
矢沢 これができるようになったのはね、
ひとつ、キーワードがあるんだ。
糸井 ほう。
矢沢 あのね、なにがなんでも
売上枚数を伸ばさなきゃいけないとか、
要するに、お金へのこだわりとか。
それを第一にするっていうことを、
まず、取っ払うんだな。
糸井 なるほど。
矢沢 これをまず取っ払ったら、人はなんでもできる。
って言うとね、まぁ、
「なんか矢沢、えらいキザで
かっこいいこと言ってるな」
ってふうにとる人がいるかもしれないけど。
糸井 (笑)
矢沢 これは、マジでオレ、そう思ってるのよ。
まぁ、金っていうか、資本力って必要だからね、
まず金がなきゃ、っていうことはある。
だから、ぼくはさんざん、
『成りあがり』の本のなかでも言ったでしょ?
「金持ちになりたい」とか「上に行きたい」とか。
「そこへ行かなきゃ男じゃない」とか。
糸井 うん。
矢沢 でもね、最近思うんだよ。
そう言ってきたオレは、必ずしも、
そこへ向かってたわけじゃなかったんだよ。
糸井 ああ、そうだと思う。
矢沢 うん。最近、つくづく思うんだよ。
「まずは金だ」「金持ちになるんだ」って
言ってないやつのほうが、そこに向かうんだよ。
糸井 ああー、そうだね。
矢沢 絶対そう思う。
だから、「金が欲しい」と言ってた矢沢は、
あのとき、表現がしやすかったから、
そう言ってたんだと思うの。
わかるかな。
糸井 うん、わかる。
矢沢 ほんとに金を稼ぐことだけを狙って
金持ちになることを心から目指している人は、
それをわざわざ口に出したりしないと思うんだ。
糸井 いや、だから、その意味でいえば、
『成りあがり』で「金持ちになるんだ!」
って言ってた永ちゃんが、
とにかく金のことを第一に
考えてたわけじゃないっていうのは、
あの当時から、すでにバレてるよ。
矢沢 ああ、そうなのかな。
糸井 そう思う。
- 人に使われてちゃダメ。
矢沢 最近、オレね、
ある俳優のドキュメント、観たんだよ。
けっこう売れてる、人気映画俳優のね。
糸井 うん。
矢沢 それで思ったんだ。
「あぁ、こき使われてるな」ってね。
糸井 ああー。
矢沢 番組自体は、そういうつくりじゃなくて、
がんばってるその人を伝えるものなんだけどね。
なんでオレが「こき使われてるな」って
思ったかっていったら、ふたつあるんだ。
ひとつは、単純に、使われてる立場に立ってる。
簡単にいえば、オーナーじゃない。
こき使われてる立場にいるから、こき使われてる。
糸井 うん。
矢沢 もうひとつは、映像をとおして、
「オレ、がんばってるし」みたいな感じが
なんていうかな、出すぎてるわけ。
いまはやらなきゃいけないからやってます、
がんばってます、ってのが映像に出すぎてる。
糸井 つまり、その状況を肯定しすぎてる。
矢沢 そう。悪いことじゃないかもしれない。
でも、オーナーじゃないその人が、
ものすごく、その立場でがんばってて、
それを見たオレが、
トータルになにを感じたかっていうと、
「体、大丈夫?」って思っちゃったわけ。
糸井 ああ、なるほどね。
矢沢 それ観たときに、オレ、
あらためて、はっきり思ったね。
「ああー、オレは幸せだなぁ」って。
だって、矢沢は、たとえば、
どれだけ、ウチのマネージャーが、
「こういう時期ですから」って言っても、
寝ずにやれって言ってくるわけじゃないし、
メシもちゃんと食わせてくれるし、
プールでちょっと泳がせてくれる時間も
キープしてくれる。
だって、そういう時間や余裕も含めて、
イコール、矢沢だからね。
糸井 うん、そうだね。
消耗して減っていったら、元も子もない。
矢沢 だから、ぼくは、ミュージシャンの方、
俳優さん、女優さんに言いたい。
「社長になんなさい」って言いたいね。
糸井 ああー。
矢沢 使われちゃダメだって言いたい。
矢沢 そうなんだ。
だから、できるかできないかは別にして、
理想としては、自分がオーナーになる。
求める形はそれなんだろうなと。
イトイ新聞もさ、いまから、何年前?
糸井 11年前。
矢沢 そう。オレがちょうど
アメリカに移住するってときだよね。
インターネットでやるんだって
話してくれたじゃない。
そのときは、そりゃたいへんだったと思うよ。
いまでこそ‥‥どれくらい来てんの、1日?
糸井 だいたい、100万から140万アクセス。
矢沢 140万アクセス、いまでこそ来てるけど、
11年前は、もう、必死だったと思うよ。
糸井 どうだろう(笑)。
でも、少なくとも、いま、
こき使われてるとは思ってないね。
矢沢 そうだろ?
糸井 うん。明日休むって言えるもんね。
矢沢 こき使われてるのは、つらいよ。
実際には、こき使われてるとは思ってないし、
気づいてない人も多いと思うけど、
それ的なつらさって、
じわじわ、にじみ出てくるからさ。
糸井 よくあるケースでいうと、
「望まれてることが、ぼくはうれしいです」
っていう形を取るんだよね。
みんな若いときはそういう時代があるんだけど、
最近は、ちょっと過剰だよね。
そういうかんばり方じゃないところに、
ほんとうのキミはいるんだよ。ほんとはね。
矢沢 まぁ、昔の日本の体育系なんかと似てるよね。
一滴の水も飲まさずに、
「いま水飲んじゃダメだ、走れ走れ!」
って言ってたけど、あるときから、
アメリカなんかのスポーツ界は、
水ガバガバ、水を補給しながら走るって聞いて
「え、水飲んでいいんだ?」って思ったじゃない。
あれと似てるよ。
糸井 (笑)
矢沢 だから、日本のこういう業界も、
水を飲みながら走ったほうが効率がいい
っていう時代に、徐々にいくんだろうね。
糸井 そうだと思う。
「これに耐えたらご褒美をあげる」っていうのは、
ほんとは、おかしいんだよ。
セットになるようなことじゃないんだ。
矢沢 うん。